街コラム

地元で愛されて100年。伊予の名物「鬼板」が、 食べる人の期待を裏切らない理由。

高橋陽子

2019.02.27

Writing: 高橋陽子

ひと目見たとき、その強そうなネーミングと、あきらかに硬そうなフォルムにくぎ付けになった。駅の売店でひときわ目立つ、どこか懐かしいパッケージにも。迷わず買って、待ちきれずに帰り道でぱくり。

「バリッ!」

か、か、硬い! 予想を裏切らない硬さ! なのに、時間が経つと口の中でスッと溶けて、ほんのり広がる生姜の香り。もう、一度食べたら病みつきで。だからこれが、どんな場所で、どんな人が作っているのか知りたくて。それが、この取材のはじまりです。

 

歴史を感じる店構えの「三谷鬼板本舗」へ

その答えを求めて向かったのは、西条市大町。JR伊予西条駅から徒歩5分ほどのところに、昭和の面影を残す店構えの「三谷鬼板本舗」があります。

「ちょっと待ってくださいね」

店の奥の作業台から優しく声をかけてくれた、店主・三谷光幸さん。隣には、作業を手伝う奥さんの姿も。そんな二人の手つきが、あまりにも手際よく、息ぴったりで。すっかり見入ってしまいました。電話で取材のお願いをしたときから、「作業中は手を止められないので」と伺っていたので、まずは、その場に立ち会わせてもらうことに。

 

手焼きで生まれる、「鬼板」の素朴さ

「鬼板は1袋8枚入り。トッピングは2種類。黒ゴマと青のりと。だから1袋に4枚ずつ」
そう教えてくれながら、光幸さんは、弾力のある生地を練って、型で抜き、もろぶたに並べていきます。それを奥さんがプレス機に並べて、一気に焼き上げます。焼き型ではなく、1枚1枚手焼き。だから鬼板には、その形も、その厚さも、微妙に違う素朴さがあります。

「僕一人で全部やることもあるんですけどね。生地をこねながら焼いて。奥さんは家のこともあるし。でも、できるときは今日みたいに手伝ってもらいます」と光幸さん。

焼き板には、丸く抜いた生地を2つ重ねるようにして置きます。こうしないと、いい大きさ、いい硬さに焼き上がらないのだとか。

焼けたら、熱したコテで“石鎚山”の刻印を。まるで、この鬼板が石鎚地方の土産物として重宝されてきた証のよう。

 

“何分”という感覚はない。“焼き時間”は段取りの中にある

プレス機に挟んだら、180度前後で焼き上げます。今でこそデジタルですが、初代は炭窯だったため、温度の見極めは「感覚」だったとか。

焼き時間を尋ねると、「うーん、5分から10分かな…計ったことがないから」と苦笑い。でも、作業をじっと見学させてもらううちに、その理由がわかった気がします。

プレス機は全部で3台。1台に生地を並べてフタをしたら、セットしてあった2台目のプレス機を開けて、焼き上がったせんべいに焼きコテを押して、取り出して、拭いて、次の生地をセット。そしたら、3台目のプレス機を開けて…の繰り返し。テンポよく進む、その職人作業の中で焼き上げていくので、“焼き時間”というのは、ないのです。

 

がっかりさせたくない。だから惜しまない

焼き上げたせんべいは、歴史を物語るように年季の入った木箱へ。
次は袋詰めだと思っていた私。けれど光幸さんは、1枚1枚カードを切るようにせんべいを見ながら、いくつかをはじいて、作業台から落としていきます。
「もったいない!!!」
思わず心の中で叫びました。せっかく焼いたのに。

「焦げたものや焼き印が薄かったものをのけるんです。もったいないとも言われますけどね。お客さんに、残念な思いをさせたくないんで」

鬼板には、昔ながらのファンが多くいる。そんなお客さんたちをがっかりさせたくはない。その一心で守っている、光幸さんなりの基準。

光幸さんの目を合格したせんべいだけが、8枚ずつに並べられていきます。
いよいよ袋詰めか、と思いきや、今度は手にブラシが。

「粉がね。ゴミやカビに見えないように」

そう言って、1枚1枚丁寧にブラシをかけていきます。最後に一手間加えて、ようやく袋詰めされる鬼板。強そうな印象でしかなかった鬼板が、なんだかとても優しく見えました。

 

脱サラして家業を継いだ。せんべいに太らせてもらったから

創業およそ100年。三谷鬼板本舗は、光幸さんで4代目。
「それまでは建設業の仕事をしてたんです。せんべい屋は親父とお袋の代で閉める予定でした。でもね、商売、やってみようかなって」
そう思って脱サラしたのは36歳のとき。周囲には戸惑いの声もあったと言います。

「でも、僕ら兄弟3人は、せんべいに太らせてもろたんで」

さらりと言葉にした光幸さん。その言葉にふと、お父さんとお母さんが、光幸さんと奥さんと同じように、せんべいを作り続けた姿が目に浮かびました。

▲「鬼板」8枚入り390円(税込)

ところで、この「鬼板」というネーミング。せんべいにも刻印されている「石鎚山」に伝わる民話に由来するのだとか。昔、鬼に終われた子どもが、民家に逃げ込んだ。鬼が壁の穴からのぞくのが怖いというので、おばあさんが鬼でも割れないせんべいを焼いて穴をふさいで追い払った、と。

 

この味を愛してくれる人がいる。それが喜び。だから守りたい

朝は4時起き。4時30分には作業場に来て、前日に仕込んでおいた生地を触る。機械化すれば楽かもしれないが、昔ながらの手法にこだわります。

「手焼きはやめないでしょうね。というより、よく考えたらできないんです、機械では。気候によって水の配合を微妙に変えて仕込むんです。生地を触りながらも、ちょっとずつ調整してますから」

材料は、小麦粉、砂糖、生姜、黒ゴマ、青のり、重曹。これも昔から変わらない。

「お客さんが言うてくれるんです。『あんたが小さいころから食べよんよ』とか『ここのじゃないといかん』って。そんなん言われたら、うれしいですよね。プレッシャーじゃないですけど、この味大事にしようと思います」

「硬さが自慢。開封してすぐにバリッと食べてもらうのがオススメ」と光幸さん。でも、長年のファンの中には、歯が悪くなっても食べたいと、開封する前に砕く人や、あえて湿気させる人もいるんだとか。そう教えてくれた光幸さんが、どこかうれしそうだったのも印象的でした。

長く受け継がれてきた味と製法。大事にしている基準。夫婦の二人三脚。
鬼板は、これからも、きっと、食べる人たちの期待を裏切りはしないでしょう。

 

【今回の取材先】

三谷鬼板本舗
場所:西条市大町782-15
電話:0897-55-3088
営業時間:7時〜17時(※配達に出ていることもあります)
定休日:不定休
販売場所:西条市観光交流センター、西条・新居浜・今治・松山駅のキオスクなど愛媛県内土産販売店、せとうち旬彩館(東京)ほか