街コラム

吉田河原の桜とおばあちゃんのおでん。

高橋陽子

2019.04.10

Writing: 高橋陽子

客がお鍋持参で並ぶ、おでん屋台

桜が満開ですね。
皆さん、お花見はしましたか?

私は初めて、西条市吉田に行ってきました。
ずっと行ってみたかった場所があったんです。
それは、桜の名所「吉田河原」でおばあちゃんが営む、小さなおでん屋台。

松山方面から車で向かい、「すぐ見つかるかな」と不安でしたが、中山川沿いに咲き誇る桜に導かれ、桜を望める絶好の位置に、そのおでん屋台はありました。

「毎年来るんよ。これ持ってお花見するんが毎回楽しみ」

そう言って、お鍋やタッパーを手に持つお客さんがたくさんいました。

「お出汁もいれてもらえるけんね」
「(お鍋に入れてもらって)そのまま火にかけたらええけん」

なるほど。河原にシートを広げている人たちに目を向けてみると、中央にはガスコンロ。
そんな楽しみ方があるんだ!と驚きました。
でもこの“お花見におでん”、こちらの皆さんに言わせると「これが普通」なのだそう。

 

おもてなしから、“お花見におでん”文化が誕生


▲約80本の桜並木が花見客を楽しませる吉田河原

おでんは、40年以上前から地元の婦人会が、花見客をもてなそうと桜の時期限定で屋台を出したのがはじまり。婦人会メンバーだった徳増君子(81)さんも、38歳のときからおでんを作ってきました。

「みんな歳をとって、しんどくなって、2015年に(おでん屋台を)辞めることになって。でもそれじゃあさみしい、と言うんでうちですることにしたんです」

そうして、4年前からご自宅の前でおでん屋台を始めた君子さん。2年目からは、桜の時期だけでなく、冬期のおでん販売も始めました。


▲おでんの注文は、注文書で

おでんの種類は8種類。「くずし」「てんぷら」などが人気で、たくさん準備しても売り切れてしまうほどの盛況ぶり。花見シーズンは、親族総出で君子さんを手伝います。

普段は松山で土木関係の仕事をしている孫の明彦さんも、花見シーズンは仕事の調整をつけ、手伝いに帰ってきているそう。

明彦さんは焼き鳥の担当。
それから、出汁の仕込みも手伝います。

「時間がかかる出汁の仕込みは、前日の夜から。飲食店に勤務していたことがあるので、ばあちゃんと一緒に、少しずつ改良を重ねています」

そんな出汁の味は「吉田の味がええけん、吉田に行こう」「あっさりめでおいしい」と評判。多くの常連さんに愛されています。

取材中も、お鍋やタッパーを手にしたお客さんが、次から次へと並びます。

「お花見ですか?」と伺うと、「いや、小腹がすいたけん」「今晩のおかずに」と買い求めるお客さんも、たくさんいらっしゃいました。

 

おでんから生まれる、喜び

お客さん「ええ天気やね」
君子さん「ほうやね。今日はどうする? お汁入れる?」
お客さん「うん、お願い」

そんな会話をしながら、お鍋が受け渡され、そこにホクホクのおでんが詰められていく光景の、なんて微笑ましいこと。

「お客さんとの会話が楽しい。ここに来て私がおらなんだら『おばあちゃんは?』というてくれる人もおってうれしい。しんどいな、思うてもおでんがあるけんと思うたら力が出る。100歳まで頑張らないかん」

そう言って可愛らしく笑う君子さん。
「周りがようついていきません」と笑う親族の皆さん。
明彦さんはこうも話します。

「ここの桜は樹齢50年から60年と言われ、老朽化が心配されているんです。でも、ずっと多くの人に見てもらいたい。公園にするとか、癒やしの音楽とライトアップで楽しむ新しいイベントをするとか、保全につながる取り組みができれば」

桜も君子さんのおでんも、いつまでもここで、大勢の人に喜び届けてくれることを、願うばかりです。

 

【今回の取材先】

吉田河原のおでん屋台

おでん販売は、4月14日(日)まで。
住所:西条市吉田
営業時間:10時〜19時

 

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